フランスは中世の修道院で育まれたシャルトリューを唯一の固有品種として持ち、ボードレールやコレットら一流の文学者が猫を詠み続けた、ヨーロッパ随一の「猫と文学の国」です。
フランス原産・ゆかりの猫種
シャルトリューは、中世フランスのカルトジオ会修道院で修道士たちが大切に飼育したと伝わる、フランス唯一の固有品種です。全身ブルーグレーの被毛とゴールド〜銅色の大きな瞳を持つ端正な外見は、「修道士の猫」と呼ばれるにふさわしい気品を漂わせています。穏やかで忠実ながら適度な独立心を持ち、自己主張が少なくほとんど鳴かない静かな性格から、アパート暮らしの多いフランス都市部でも特に愛されてきました。セミコビー体型でがっしりとした骨格を持ちながら、成長はゆっくりで完全な成熟には3〜4年かかるとされており、育てる喜びをじっくりと味わえる品種です。
フランスにおける猫の歴史
フランスへの猫の渡来は古代ローマ時代にさかのぼります。ローマ人がガリア(現在のフランス)に持ち込んだ猫は、農場や倉庫でネズミを駆除する働き者として各地に広まりました。中世になると、カルトジオ会(グランド・シャルトルーズ修道院)の修道士がブルーグレーの猫を飼育していたという伝説が生まれ、これが品種名「シャルトリュー」の由来ともなっています。カルトジオ会はフランス南東部アルプス山中に創設された修道会で、厳格な沈黙と労働の掟で知られており、静寂を好む猫は書庫や食料庫をネズミから守る守護者として修道院に欠かせない存在でした。修道院での飼育という記録が品種の歴史に刻まれているのは、世界の猫種の中でもシャルトリューだけの特徴です。
1697年には、シャルル・ペローが童話集の中に「長靴をはいた猫(Le Chat Botté)」を収録しました。主君を守るために知恵を働かせる猫の主人公は、フランス人が猫に感じてきた「賢さと策略性」を体現したキャラクターとして、現在も世界中で愛読されています。
17〜18世紀には、博物学者ビュフォン伯爵が著書の中でシャルトリューを詳細に記録し、猫が学術的な注目を集めるようになります。中世末期から近世にかけてヨーロッパ全域で猫が魔女の使い魔として迫害された時代もありましたが、フランスでは啓蒙思想の台頭とともに猫への見方は改まり、18世紀以降は知識人に愛される洗練されたペットへと変貌を遂げていきました。フランス革命後の19世紀には、猫は貴族や上流階級の「洗練されたペット」として確立し、詩や絵画の題材として芸術家たちに愛されていきました。第二次世界大戦中はシャルトリューの個体数が激減しましたが、戦後にブリーダーたちによって復興が図られ、1970年代以降は国際的な品種登録機関でも公認されています。現在フランスでは約1,400万匹の猫が飼育されており、犬と並ぶ最も人気のペットとなっています。
フランスの猫文化
フランスの猫文化を語る上で欠かせないのが、文学・芸術との深い結びつきです。詩人シャルル・ボードレールは1857年の詩集『悪の華(Les Fleurs du Mal)』の中で猫を繰り返し詠み、猫を「知性・官能・神秘」の象徴として描きました。ボードレールにとって猫は詩的インスピレーションの源そのもので、後の時代に言語学者ローマン・ヤコブソンが詩「猫たち(Les Chats)」を学術分析の対象とするほど、フランスの知識人文化に深く刻まれています。
ヴィクトル・ユゴー、テオフィル・ゴーティエ、作家コレット(Colette)と、フランスを代表する文学者の多くが猫を偏愛したことで知られています。ゴーティエは「猫のいない家には魂がない」という言葉を残し、フランス19世紀の文壇には猫を偏愛する作家・詩人が多く集まり、猫は「知識人のパートナー」というイメージをヨーロッパ全土に広めていきました。コレットは猫を題材にした複数の作品を残しており、猫の繊細な心理を描写した文章はフランス文学の名品として今も読み継がれています。
1881年、パリのモンマルトルに開店した「シャ・ノワール(Le Chat Noir)」キャバレーは、黒猫のシルエットをシンボルに芸術家・詩人・音楽家が集う文化サロンとなりました。毎夜繰り広げられる詩の朗読・音楽演奏・影絵芝居はパリ中の話題となり、シャ・ノワールは「黒猫=フランスの前衛芸術と自由」というイメージを確立した場所として、フランスのキャバレー文化の原型となりました。フランスでは現在も毎年各地でキャットショーが開催されており、LOOF(フランス猫書記)が国内の公認品種登録機関として機能しています。シャルトリューをはじめとするフランス固有品種への誇りは、現代のブリーダーたちにも受け継がれています。
フランスを代表する猫のエピソード
フランスの猫文化を象徴するエピソードとして、ボードレールの詩「猫たち(Les Chats)」は特別な位置を占めています。1857年刊行の『悪の華』に収められたこの詩は、猫を「夜の魔術師」「哲学者の仲間」として描き、後の時代に記号学者ローマン・ヤコブソンと文化人類学者クロード・レヴィ=ストロースが共同分析するほど、フランスの知識人文化に深く刻まれた作品となっています。ボードレールは実生活でも猫を深く愛し、猫を通じて孤独や神秘を詠み続けました。
「シャ・ノワール」キャバレーは、1881年にアンリ・ロドルフ・サリスがパリのモンマルトルに創業したヨーロッパ初の近代的なキャバレーです。若きエリック・サティはここで演奏しながら作曲の道を切り拓き、ポール・ヴェルレーヌらが詩を朗読しました。店のシンボルである黒猫のシルエットポスターは画家テオフィル・アレクサンドル・スタンランが手がけ、現在でも世界中の美術館に収蔵されています。
現代においては、バンド・デシネ(フランス語圏のコミック)においても猫が活躍する傑作があります。ジョアン・スファルが描く『ル・シャ・デュ・ラバン(Le Chat du Rabbin/ラビの猫)』は、アルジェリアのユダヤ人家庭で暮らす猫の視点から宗教・哲学・異文化理解を描いた傑作として、フランス国内外で高い評価を受けています。猫を主役に深い思想を問うフランス文化ならではの表現です。
よくある質問
シャルトリューは日本でも入手できますか?
シャルトリューはフランス原産ですが、日本でも専門ブリーダーが飼育しています。ただし流通数が少なくペットショップではほとんど見かけないため、専門ブリーダーへの問い合わせが一般的なお迎えルートです。価格は10〜25万円程度が目安です。
シャルトリューはなぜいつも笑っているように見えるのですか?
ふっくらとした頬と口角が自然と上がった骨格・筋肉の構造によるもので、「シャルトリューのほほ笑み」と呼ばれる特徴です。実際に機嫌がよいわけではなく顔の造形によるものですが、愛好家の間ではこの表情がシャルトリューの魅力のひとつとして親しまれています。
シャルトリューとロシアンブルーの違いは何ですか?
どちらもブルーグレーの被毛を持ちますが、シャルトリューはフランス原産でゴールド〜銅色の瞳が特徴で体型もがっしりしています。ロシアンブルーはロシア原産でエメラルドグリーンの瞳を持ち、体型はよりスリムです。起源・瞳の色・体格の3点が主な違いです。
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