タイは14世紀の古文書「猫の詩(タムラ・マエウ)」に複数の猫種が記録されているほど、猫と王室の結びつきが深い国です。シャム・カオマニー・コラットという3品種が現代まで純血を守り、世界の猫文化に影響を与え続けています。
タイ原産・ゆかりの猫種
シャムは、旧シャム王国(現タイ)を原産地とする世界最古の猫種のひとつです。14世紀頃に書かれた古文書「猫の詩」にその姿が描かれており、以来タイの王族・貴族に「神聖な猫」として大切に飼育されてきました。オリエンタル体型の細身の体に、顔・耳・四肢に現れるポイントカラーと深みのあるサファイアブルーの瞳が特徴で、感情豊かでおしゃべり好きな性格から「犬のような猫」とも呼ばれます。1871年にロンドンのキャットショーで西洋に初めて紹介されると瞬く間に人気を集め、現在では世界で最も知られたタイ原産猫種となっています。
カオマニーは、タイ語で「白い宝石」を意味する名をもつ希少な純血種です。全身が雪のような純白の被毛に覆われ、ブルー・ゴールド・グリーン、あるいはオッドアイ(左右異色)の瞳を持ちます。タイの古典詩集「タムラ・マウ」に幸運をもたらす猫として記録されており、歴代の王族に献上されてきた歴史を持ちます。長い間タイ国内でのみ飼育され国外への持ち出しが制限されていたため、世界的な普及は20世紀後半からに過ぎません。2009年にTICA(国際猫協会)が暫定承認したことで国際的な認知が広まりました。
コラットは、タイ北部のコラット高原(現ナコーンラーチャシーマー県周辺)を原産とする猫種です。被毛はシルバーブルー一色で、毛先に向かうにつれてシルバーに輝くシルバーチッピングが独特の美しさを生み出します。「タムラ・マエウ」にはそのシルバーブルーの被毛が雨雲の色を、エメラルドグリーンの瞳が豊かな田畑の緑を象徴するとされ、豊作と幸福をもたらす猫として古くから王族への贈り物や婚礼の贈り物に使われてきました。1959年にタイからアメリカへ2頭が渡り、その後ブリーダーによる繁殖が進められ、1967年にCFA(愛猫協会)に公式登録されました。
タイにおける猫の歴史
タイと猫の関係を語るうえで欠かせないのが、14〜15世紀に編纂されたとされる古典文書「タムラ・マエウ(猫の詩)」です。この写本には17種に及ぶ「吉祥猫」が詩と絵で記録されており、シャム・カオマニー・コラットの3品種はすべてそのなかに含まれています。写本はバンコクの国立図書館に複数の写しが現存しており、タイの猫文化が少なくとも数百年の歴史を持つことを証明しています。
アユタヤ王朝(1351〜1767年)の時代、シャムは王宮内で特別な地位を与えられ、王族以外が所有することを禁じられていた時期もあったとされています。シャムが王室の猫として扱われた背景には、ブルーの瞳と独特のポイントカラーが「神の使い」を思わせる神秘的な外見にあったといわれています。王の死に際して、その魂がシャムの体に宿るという信仰もあり、王の葬儀の際にシャムが儀式に用いられたという記録も残っています。
カオマニーもまたアユタヤ時代から続く王室専用の猫とされ、オッドアイを持つ個体は特に縁起が良いとされました。タイの伝承では、オッドアイのカオマニーを持つ家には富と幸運が訪れると信じられ、一般庶民が入手することは実質的に不可能に近かったといわれています。コラットについても、古くからタイの農村部で豊作祈願の儀式に用いられ、雨乞いの際に村の若者がコラットを籠に入れて農地を回る風習があったと伝えられています。
19世紀後半、タイの猫種が初めて西洋に紹介されました。1871年のロンドン・クリスタル・パレスでのキャットショーにシャムが出品されたことが近代的な品種普及の起点です。当時の記録には「不思議な暹羅(シャム)産の猫」として驚きとともに紹介されており、欧米のブリーダーたちに強い関心を呼び起こしました。
タイの猫文化
タイの仏教文化において、猫は寺院生活と深く結びついています。ワット・ポーやワット・プラケオといったバンコクの著名な寺院では、境内を自由に行き来する猫の姿が今も日常的に見られます。僧侶たちは猫を「邪気を祓う存在」として大切にし、境内で過ごす猫に食事を与えることを徳を積む行為と捉える考え方が根付いています。
タイでは猫を「幸運のシンボル」として贈る風習が現代にも残っています。特にコラットは、かつて新婚夫婦への祝いの贈り物として一対の猫を贈る慣習がありました。コラットを2頭贈ることは「家庭の繁栄と長寿」を願う意味を持ち、タイ東北部のナコーンラーチャシーマー県では今日でもこの伝統が語り継がれています。
バンコクをはじめとする都市部では、猫カフェ文化が2010年代以降に急速に発展しました。特にシャムやコラットなどタイ原産の猫種を集めたカフェも登場し、地元の若者や観光客に親しまれています。また、毎年1月には各地でキャットショーが開催され、タイ国内で純血繁殖されたシャム・コラット・カオマニーが特別部門を設けて出品されます。
チェンマイをはじめとするタイ北部の農村部では、猫は今も穀倉を守る実用的な存在として飼われています。コラット高原一帯ではコラットの飼育が地域の誇りとなっており、純血統の保存に取り組む地元ブリーダーが政府の支援のもとで活動しています。タイ政府はコラットの輸出管理に関わっているとされており、品種の国際的な品質維持に貢献しています。
タイを代表する猫のエピソード
タイの猫にまつわる最も有名なエピソードのひとつが、1878年のイギリス王室へのシャム贈呈です。タイ(当時のシャム王国)の駐英公使から、当時のイギリス総領事オーウェン・ゴールド・スミス夫人にシャムが贈られ、その後イギリス王室にも献上されたと伝えられています。この出来事はシャムが「王族の猫」として欧米に認知されるきっかけとなり、品種の世界的普及を大きく後押しました。
カオマニーについては、タイ最後の王朝チャクリー朝のラーマ5世(チュラーロンコーン大王)が深く愛したという記録が残っています。ラーマ5世は数十頭のカオマニーを王宮で飼育しており、その飼育記録が現在もタイ国立文書館に保存されています。彼は欧米列強の植民地化圧力のなかでタイの近代化を推進した名君として知られ、その治世(1868〜1910年)にカオマニーは「タイの象徴」としての地位をより高めていきました。
コラットには「雨を呼ぶ猫」という伝説的な役割があります。タイ東北部の農村では、コラットのシルバーブルーの被毛が雨雲の色に似ているとして、旱魃の時期にコラットを村中に連れ回して水をかける「雨乞い儀式」が行われてきました。この儀式は20世紀中盤まで実際に行われていた地域があり、コラットという品種の文化的重要性を示すエピソードとして今日でも語り継がれています。
よくある質問
シャム・コラット・カオマニーはタイでは今も見られますか?
バンコクの王宮や著名な寺院の周辺では、これらの品種に近い猫を見かけることがあります。ただし純血統の個体はタイ国内でも希少で、専門ブリーダーを通じてのみ入手できるケースがほとんどです。
コラットが「幸運の猫」と呼ばれる由来は何ですか?
タイの古書「猫の詩」に、コラットのシルバーブルーの被毛が雨雲を、エメラルドグリーンの瞳が田畑の豊かさを象徴すると記されています。古来よりタイでは豊作と幸福をもたらす猫として王族や農民に大切にされてきました。
カオマニーのオッドアイはなぜ珍重されるのですか?
タイの伝承では、オッドアイを持つカオマニーは特に強い幸運をもたらすとされ、歴代の王族に献上される際にも特別な価値を持ちました。現代においてもオッドアイの個体は希少性が高く、ブリーダー価格でも高額になる傾向があります。
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