1871年にロンドンで世界初の公式キャットショーが開催されたイギリスは、近代的なキャットショー文化の発祥地です。ビクトリア時代から純血種の育種が盛んで、世界でも屈指の品種数をこの島国が生み出してきました。
イギリス原産・ゆかりの猫種
ブリティッシュショートヘアは、イギリスを代表する猫種です。古代ローマ人がブリテン島に持ち込んだ猫をルーツとし、19世紀のキャットショー文化の中で品種として確立されました。丸い顔・丸い目・ずんぐりとしたがっしり体型が特徴で、独立心が強く穏やかな性格から、初心者にも飼いやすい品種として世界中で愛されています。
ブリティッシュロングヘアは、ブリティッシュショートヘアに長毛遺伝子が発現したバリエーションです。豊かなセミロングの被毛とどっしりとした体格が際立ち、穏やかで自立心の高い性格はショートヘアと共通しています。
スコティッシュフォールドは、1961年にスコットランドのパースシャー地方の農場で、耳が折れ曲がった子猫「スージー」が発見されたことに始まります。折れ曲がった耳とまん丸な顔立ちが世界中で人気ですが、骨軟骨異形成症のリスクを持つため、迎える前に正しい知識を持つことが大切です。
スコティッシュストレートは、スコティッシュフォールドと同じ血統から生まれた、耳がまっすぐ立った品種です。まん丸の丸顔と穏やかで甘えん坊な性格は折れ耳のフォールドと共通しており、骨格上のリスクが少ないとされています。
コーニッシュレックスは、1950年にイングランド南西部のコーンウォール州で生まれた自然突然変異種です。波打つようなウェービーコートはアンダーコートのみという珍しい構造で抜け毛が非常に少なく、しなやかなオリエンタル体型と活発で人懐っこい性格が魅力です。
デボンレックスは、1960年にイングランド南西部のデヴォン州で発見された自然変異種です。くるんとカールした極短毛と大きな三角耳、「妖精のような」顔立ちが特徴で、コーニッシュレックスとは発見場所こそ近いものの遺伝子的には異なる変異によるものです。
マンクスは、アイリッシュ海に浮かぶマン島を原産地とする、しっぽを持たない独特のシルエットで知られる品種です。数百年にわたって島で独自進化した結果、しっぽのなさが固定されたとされており、島の文化的シンボルとしてマン島の硬貨にも描かれています。筋肉質でどっしりとしたコビー体型に穏やかで忠実な性格を持ちます。
ペルシャは、17世紀にペルシャ(現在のイラン)からイギリスへ持ち込まれ、ビクトリア時代のキャットショーで大人気を博した品種です。絹のようになめらかな長毛とつぶらな大きな瞳が印象的で、穏やかで物静かな性格から室内飼いと相性が良く、イギリスの育種家たちによって現在の品種標準が確立されました。
ハバナは、1950年代にイギリスの育種家がブラックのショートヘアとシャムを交配して生み出した品種です。全身がチョコレートブラウン一色に輝く短毛と鮮やかなグリーンの目のコントラストが美しく、ハバナタバコのような深みある茶色が名前の由来とされています。
バーミラは、1981年にイギリスで偶然生まれた品種です。チンチラペルシャのオスとバーミーズのメスの予期せぬ交配から誕生し、シルバーに輝く美しい被毛とエメラルドグリーンの瞳が印象的な中型猫として品種として固定されました。バーミーズの陽気さとチンチラペルシャの優雅さを受け継いでいます。
その他のイギリスゆかりの品種として、チンチラペルシャ(ペルシャの毛先のみシルバーやゴールドに色づくカラーバリエーション)、セイシェルワ(シャムとペルシャの交配によるバイカラーの希少品種)、ソマリ(アビシニアンの長毛バリエーションで、イギリスの育種家が品種固定に貢献)、マンチカン(自然突然変異による短脚が特徴)があります。
イギリスにおける猫の歴史
イギリスへの猫の本格的な到来は古代ローマ時代にさかのぼります。ローマ軍が紀元前後にブリテン島へ侵攻した際、穀物倉庫のネズミ駆除のために猫を連れてきたとされており、当時の遺跡からは猫の骨や足跡の痕跡が発見されています。中世においても猫は農村部・修道院・都市部でネズミ退治の担い手として重宝され続けました。
転機となったのはビクトリア時代(1837〜1901年)です。ヴィクトリア女王自身が猫を愛好し、ペルシャなどの純血種を宮廷で飼ったことが上流階級の間でのブームに火をつけました。1871年7月13日、ロンドンのクリスタルパレスで開催された「ナショナル・キャット・ショー」は世界初の公式キャットショーとして記録されており、主催者ハリソン・ウィアーは「猫の父」とも呼ばれています。このショーには170匹以上の猫が出展され、品種の美しさを競うという新しい文化がここから生まれました。
1887年には英国最大の猫の愛好家団体「ザ・キャット・クラブ」が設立され、1910年には現在も世界最大規模のキャット登録機関として知られる「GCCF(Governing Council of the Cat Fancy)」が発足しました。GCCFはブリティッシュショートヘアをはじめ多くの品種標準を定め、現代のキャットショー文化の基礎を築いています。
イギリスの猫文化
イギリスの猫文化で特筆すべきは「ダウニング街10番地の猫」の存在です。イギリス首相官邸であるダウニング街10番地には、公式に「チーフ・マウザー(首席ネズミ捕り担当官)」という称号を持つ公務猫が配置されています。この役職は少なくとも16世紀から続いており、現在も公式な政府ポストとして機能しています。歴代のチーフ・マウザーの中でも、2011年から在任するラリーは最長在籍記録を更新し続けており、複数の首相交代を経ても「公務員」として在職しています。
またイギリスの文学・芸術においても猫は重要な存在です。ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』に登場するチェシャ猫、T・S・エリオットの詩集『キャッツ』(後にミュージカル化)、ビアトリクス・ポターの絵本など、猫を主役にした作品がイギリス文化の中で大きな位置を占めてきました。エリオットの詩集は1939年の出版から40年以上後にアンドリュー・ロイド・ウェバーによってミュージカル『キャッツ』として舞台化され、ロンドン・ウエストエンドで1981年から2002年まで21年間のロングランを記録しました。
キャットショーの文化もイギリス発祥として根付いており、GCCFが主催するショーには毎年何千もの純血猫が出展されます。ブリティッシュショートヘアやペルシャ、マンクスといった品種はショーシーンで特に高い評価を受けており、育種家たちの長年の努力が現在の品種標準を支えています。
イギリスを代表する猫のエピソード
イギリスで最も象徴的な公務猫が、ダウニング街10番地に常駐するラリーです。2011年2月にロンドンのバタシー・ドッグズ・アンド・キャッツ・ホームから引き取られたラリーは、デイヴィッド・キャメロン、テリーザ・メイ、ボリス・ジョンソン、リズ・トラス、リシ・スナク、キア・スターマーと6人の首相に仕えた長命の公務員猫です。首相が交代するたびにメディアが「ラリーの反応」を報じるほど、イギリス国民に愛されています。
また、第二次世界大戦中にHMSケリーをはじめとする英国海軍の艦艇で働いた「シップス・キャット(Ship’s Cat)」の文化も有名です。特にサイモンという名の猫は1949年のヤンツェ川事件(中国内戦の最中に英海軍艦が中国軍に砲撃・拘束された事件)においてHMSアメジストの乗組員の士気を支えたとして、動物に贈られる最高の勲章「ディッキン・メダル」を受章しています。
よくある質問
ブリティッシュショートヘアとスコティッシュフォールドはどちらもイギリス原産ですか?
どちらもイギリス(グレートブリテン島)が原産です。ブリティッシュショートヘアはイングランドで古代から飼育されてきた猫を品種化したもの、スコティッシュフォールドは1961年にスコットランドの農場で発見された折れ耳の突然変異種です。
マンクスはなぜしっぽがないのですか?
マン島という限られた環境で長期間交配が繰り返された結果、しっぽが短くなる遺伝的変異が島内で固定されたとされています。遺伝的に同型接合(しっぽなし遺伝子を両方から受け継いだ)の場合は致死的になるため、現在も繁殖には注意が必要です。
コーニッシュレックスとデボンレックスは同じ突然変異ですか?
どちらもイングランド南西部で発見されたウェービーコートの変異種ですが、遺伝子レベルでは異なる変異によるものです。コーニッシュレックスは1950年にコーンウォール州、デボンレックスは1960年にデヴォン州で発見されており、交配試験によって両者の変異遺伝子が別物であることが確認されています。
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